其ノ十二 帛紗

「ええ。それでも、私がお夏の事を憎からず思って居る事は、おのずと他の奉公人達にも伝わってしまう様で、私の妻のおりくにも、有る事無い事告げ口する者も現れて……。お六の方からは、お夏は直接酷い事を言われたりはしていなかった様なのですが。


 まあ、そんな事が続いて、居たたまれなくなったお夏はある日突然、店から姿を消したのです。私に行く先も告げずに」


 先生は話を聞きながら、帛紗ふくささばいて腰に付けると、茶入れのなつめをゆっくりと手元に引き、

「それで、探したのかね?」

 と高蔭にお尋ねになりました。



明日に続く

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