其の五 逆子

「こ、これは……」


 先生が腹部ふくぶ触診しょくしんなさいますと、眉間にしわを寄せ、険しい表情をなさって、ここへ私たちを連れて来た丁稚でっち風の少年にこう仰いました。


しもの方から水が出て来たのは、つい今しがただね? さして時間が経ってはいまいな?」

 少年は先生に向かってこっくりと頷きました。


「そうか。一刻も早く産み落とさねば危険だな。しかも……頭が下にない。逆子さかごだ」


 逆子……私は自分で取り上げた事こそは有りませんが、女科じょかの医者修行仲間や産婆さんばから、逆子についての困難な話、危険な話を何度も聞いたことが有ります。母子のどちらかが助からない場合も多いとか。最悪、両方とも。


 先生は少し思案された上、その少年に向かってこう仰いました。

新町しんまち敬樹寺けいじゅじの脇に、逆子のお産の経験豊富な、腕の良い産婆が居る。君、呼んで来てもらえるか? 魚町うおまち木居もくおりからの紹介と伝えれば良い。

 そしてお優。念の為、薬の漢方を、急ぎ調合しておくように」


 と、手際良く指示を出されたのでした。


明日に続く



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