其の四 女人

「先生、お弟子様。急な事で有りますのに、こんな所にお立ち寄り頂き、たいへん心強うございます」


 今が陣痛と陣痛の狭間はざまで有るのか、奥様と呼ばれた大きなお腹の女人にょにんは、私と先生がここに入って来たばかりの時の苦しげな表情とは打って変わって、おだやかに優しげな口調で、このような下町の小路こうじのあばら屋に住んでいる人のわりには、上品な言葉遣いでこのように言いました。


 この女人は、肌の色は先ほど表に咲いていた夕顔の花のように白く、たおやかで涼しげな目元に、ほほにはつやが有り、それでいてどこか幼さやあどけなさを残した、見る者が思わず微笑みかけたくなるような愛嬌あいきょうの有る表情をした、美しい女人なのでございます。


「では、失礼して」


 このお方の陣痛の波が引いているこのすきにと、先生は早速、下腹部に布団をかぶせたまま、診察を始められました。


明日に続く

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