其ノ十九 大男

「御免下さい! 御免下さい! 先生、今朝も作りたての良いお豆腐が出来ましたよ。正月にお持ちした白菊しらぎくほどでは無いですけれども。」


 その大男は、この木居家のことは勝手知ったる風情で、ご家族が朝餉あさげを取る奥の居間の方に向かって大声でこう叫ぶや否や、玄関を開けにがりかまちの所まで来て居た私の手に、抱えて来た豆腐の入ったたらいごとどさりと渡すと、慌てて履き物を脱ぎ、


「ぼっちゃま。春庭ぼっちゃま。これは大変な地図ですよ! あなたは天賦の絵の才がお有りになる。」


 男は興奮気味に話しながら、何やらふところに大切にしまった絵図の様な紙を取り出し、先生と春庭様が居られる居間に駆け込んで行ったので御座います。




明日へ続く

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