其ノ十八 高菜

昼餉ひるげのお弁当に御座います。」

 先生は本日往診は御座いませんので、私は春庭様の昼餉ひるげに召し上がる、高菜たかなの握り飯と小魚の甘露煮を経木きょうぎで包んだお弁当を、居間にお持ちしました。


 春庭様は目を輝かせて私の方をご覧になると、まるで幼い子供の様に無邪気なご様子で、

「昼は高菜結たかなむすびかあ。楽しみだな。お優が漬けた高菜漬けは絶品だからね。」

 と仰ったので私は、

「とんでも御座いません。近頃、山野村やまのむらの辺りから参る行商人が持って来る高菜の品が良いからでしょう。私は何も……。」

 とだけお答え致しました。

「そうかな。塩加減もとっても絶妙で美味おいしいよ。そうでしょう、父上。」


 普段だと、春庭様が私の様な下働きの者と親しく話していると、春庭様のお母君ははぎみのご機嫌が斜めになってしまわれる事が有るのですが、本日は居間に先生と春庭様だけでいらしたので、春庭様は私にこんな軽口を仰るので御座いましょう。


 そこへ、どんどんどん、と玄関の戸板を叩いて、豆腐の入ったたらいを腕に抱えた大柄な男が、木居家を訪ねて来たので御座います。



明日へ続く

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