其の二十三 青海波

 山桜 命にかへて惜しめとや 

 見はてぬ夢と 花の散るらむ


 入り日が山の端を染め、風に舞った山桜の花びらが散り落ちる中、春庭様は、以前に藩主様よりたまわった「花」と言う字を使ってお作りになられたこの和歌を、雅楽ががくに乗せてゆったりと、かつ朗々ろうろうと、鈴を転がすような声でお歌いになられると、池越しに舞台をご覧になっていた、主君も家臣も女中たちも、全ての聴衆がこれに聞き入り、深く胸打たれた御様子だったと聞きました。


 お城の女中たちなどは浮足立うきあしだって、春庭様と四ツ井よつい高蔭たかかげの事を、まるで源氏物語の紅葉賀もみじのがじょう試楽しがくの場面で、光源氏と頭中将とうのちゅうじょう青海波せいがいはを舞われた時のようにうるわしいお二人だったなどと、お噂なさったとか。



明日に続く

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