其の二十四 比翼連理

「おれい、前田様に御酌をして差し上げなさい」


 壇上にて春庭様の和歌が歌われている、ちょうどその頃、池越しに舞台が一番良く見える書院しょいん広縁ひろえんに座した藩主様ご一家と前田様の前には、ぜんに乗った山海の酒肴しゅこう漆塗うるしぬりの屠蘇器とそきが並べられ、藩主様は玲姫れいひめ様に御酌をするようお勧めになられました。


 玲姫様は父君に黙って頷くと、心を無にしてただ、かねてから人に教えられた通りの作法で屠蘇器とそきを手に取り、前田様のしゅさかずきに静かに酒を注がれました。


「こうしてみると、正にお似合いの二人じゃのう。これから長い生涯を共にし、比翼連理ひよくれんり夫婦めおととなり、仲睦まじくお暮しなさい」


 藩主様はこう仰って頷かれると、まるで雛人形のように美しく並んでお座りになって居られる、釣り合いの取れたお二人のご縁を取り持てたことに、至極しごく満悦まんえつの御表情でいらっしゃいました。



明日に続く

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