其ノ十四 小判

 この家の女主人が、幸せそうに赤子あかごに初めての乳を与えて居ると、丁稚でっちの少年が別室に下がり、家紋かもんの付いた立派な錠前じょうまえ付きの箱から、何やら取り出して私たちの所に持って来ました。


 それを見て先生は、

「これは……。いや、こんなには頂けんよ」

 と仰いました。


 少年が先生に、産婆さんば様に、そして私にと差し出したのは、なんと黄金の小判こばん、しかも各人に一枚ずつでした。


「良いのです。こう言う時に惜しみなくお礼なさい、と旦那様が仰って、お預かりして居るお金で御座いますので」

 と、少年は真っ直ぐな目でこちらを見て、こう言ったのでした。


 お礼の小判を頂いて、先生と私が家路に着いた時にはとっぷりと日も暮れ、夜半過ぎになって居りました。一体どんな羽振はぶりの良い旦那様が、あの夕顔の花の様なたおやかな女人にょにんの面倒を見ているのでしょうね、と少年に借りた二つの提灯ちょうちんを手に取り、話をしながら歩いて帰ったのでした。


来週に続く

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