其ノ十二 反物

 キュイッ トントン、キュイッ トントン


 小気味良い音を繰り返し、はたり、を滑らせながら、少女は濃淡を複雑に染め分けた藍色の糸を、配色見事に織り成して行きました。


「さあ、正太郎さん、織り上がりましたよ」


 おまさと呼ばれたよわい十四、五の少女は、美しく仕上がった勢州木綿せいしゅうもめん反物たんものを正太郎に手渡すと、納期を守れてほっとしたのか、根気の要る作業で凝った肩をとんとんと自分で叩きながら、ようやっと笑顔で辺りを見回しました。


 おまさが身につけて居る着物は、たった今仕上げた商品の反物たんものの様な上等の品では無く、くず糸を簡単に染めただけの糸でこしらえた木綿の古い単衣ひとえで、おまさが決して裕福な家の娘では無い事が見て取れましたが、微笑んだおまさの顔立ちを良く見ると、化粧っ気はまるで無いのに、大きな瞳の上に整った弓型の眉、鼻筋もぴいんと通ったなかなかの美貌の持ち主である事は、一目で分かったので御座います。



明日に続く

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