其ノ十一 上がり框

 聞けば、その若者は名を健吉けんきちと言い、先程おばばと呼んでいた、目の悪い老いた祖母と暮らして居るのだと言います。


 健吉の自宅の手前まで来ますと、古い土間どまの脇に機織はたおり部屋が有るのか、中からことん、ことん、と小気味良い調子ではたを織る音が聞こえて参ります。


 健吉に導かれるまま土間の方から家に入りますと、健吉と年は近いが、日に焼けて精悍な顔立ちの健吉に比べ、色が白くむっちりと肥えた、身なりは整ったもう一人の若者が、何かを待って居る様な様子で、上がりかまちに腰掛けて居りました。


正太郎しょうたろうさん、また来て居たのかい? 別に此処まで取りに来なくたって、おまさちゃんの反物たんものが仕上がったら俺が届けに行けば良いんだから。」


 健吉に正太郎さんと呼ばれた身なりの良い若者は、その言葉を聞いて居るんだか居ないんだか、土間の脇の機織はたおり部屋で織り物をして居る一人の少女の方を、頬に手を当てて、ぼうっと見入って居たので御座いました。



来週火曜に続く

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