其ノ十 あばら屋

「おうい、おうい! お待ちくだされ。

 町からお医者の先生が見えて居るって聞いたもんでよう。どうかどうか、うちのおばばの目もてやって下され。」


 そのおのこの若者は、年の頃なら私と同じ十六、七と言った背格好でしたでしょうか。先生と私は、その若者の真剣な眼差しに、思わず足を止めました。


「先生、如何致しましょう?」

 私がこのように先生にお尋ね致しますと、

「まあ、眼科は私の専門では無いがな。この若者がこんなに懇願して居るのだから、てやらぬ事も無い」


 先生はこう仰って、若者の手招く方向に有る農家の茅葺かやぶきのあばら屋に、診察に向かう事になさったので御座います。



明日に続く



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る