其ノ十九 渡り廊下

 坂を登り切って、腰掛けに座っていらっしゃった先生と再び合流し、改めて二の丸御殿の全貌を眺めました。


 手前には白漆喰しろしっくい総塗籠そうぬりごめの見事な壁に、黒漆塗くろうるしぬりの窓枠を持つ美しい化粧櫓けしょうやぐら、そこから延々と続く渡櫓わたりやぐらの先にそびえる壮麗な本殿を遠目に見た時、私はあまりの畏れ多さに、膝が少し震えてしまいました。


 鉄板を打ち付けられた扉を持つ、堅牢な櫓門やぐらもんの所で門番に入城手形にゅうじょうてがたの木札を渡し、出て来た案内のお女中に付き従って百間廊下ひゃっけんろうかを渡って行きます。


 お女中とは言えそのお姿は、かつて江戸城大奥の奥奉公出世双六おくぼうこうしゅっせすごろくの挿絵で見た様な、私がそれまで一度も目にした事の無い、豪奢な絹の打掛うちかけを羽織り、その立ち居振る舞いも、指の先々にまで染み付いた行儀作法が行き届いて居るかの様で、私は只々感心しながら、そのお背中を追って、渡り廊下を進んで行ったので御座います。



明日に続く

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