其ノ二十 欄間

 先生と私が、お女中に導かれながら百間廊下ひゃっけんろうかを進み、その突き当たりの所に、上品な彫りのある一本檜いっぽんひのき長押なげしに囲まれ、それまでより一段低くなって居る入り口をくぐると、そこからは殿のご家族の私的な空間となって居られるのでしょう、ふすまの引き手もあおいの御紋をかたどっており、上を見上げると、豪奢な鳥の透かしを施した欄間らんまの隙間から、昼間の明るい光が差し込んで居りました。


「おさじか? 入られよ」


 化粧けしょうの間と呼ばれる和室の襖の向こうより、太く威厳の有る女子おなごのお声がしましたので、私はただお女中に導かれるままに、殿の第一の御側室ごそくしつで有られるお志麻しま方様かたさまのお部屋の中に、畏まって畳に頭をこすり付けながら、入って行ったので御座います。



来週に続く



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