其ノ二十一 灸

腎兪じんゆ大腸兪だいちょうゆ胞盲ほうこう……」


 鮮やかな若草色の、見事な細工の翠簾すいれんを隔てた向こう側にいらっしゃる、木居宣長もくおりのりなが先生の仰る通りの順番に、私は奥方様おくがたさまの背中の経穴つぼに灸を据えて行きます。


 私は今までも何度も、先生のもとじかに患者様に鍼灸しんきゅうを施術した事は御座いますし、この丸御殿まるごてんでのお話を頂いてからは、仕事終わりに女中部屋で、夜な夜な女中仲間を相手に、経穴つぼ経絡けいろを表す明堂図めいどうずを見ながら練習を重ねて参りましたが、なにぶん本日は緊張で手が震えて思うように動かない上、奥方様は、さすがに名家第一の御側室ごそくしつとあって、日々栄養の良いものをお召し上がりになって居るせいか、なかなかに恰幅の有るお体でいらっしゃいまして、お背中やおなかの周りの身の脂が邪魔をして、思うように経穴つぼが探せず、施術はなかなかに難儀なもので御座いました。



明日に続く

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