其ノ四 涙

「お夏が……、労咳ろうがい?」

 高蔭たかかげは驚いてこう言いました。


「あんさん木居もくおり先生からまだ聞いとりませんでしたか。

 女子おなごはん、ゆうべ遅くに血い吐かはって、今日早速、木居先生が診て下さったら、労咳やて。

 長吉、あの子もな、うつる病やと聞いて吃驚びっくりして、こわなったんやろな。先生らが帰った後、その足で直ぐに走って来てうちらに知らせてくれたんや。


 お夏さん? 言うんかその女子おなごの事は、あんさんにうちらには喋るなて口止めされとった様やけど……まあ、そう言う事やから、長吉を責めんといて上げてな」


 元より感情の豊かな高蔭は、愛しいお夏がやまい、しかもよりにもよって今の医学では不治ふじとも言われる労咳にかかってしまった事を知り、お夏の体の事と、幼な子の母で有る立場を思うと、胸が張り裂ける様な、居ても立っても居られない気持ちにさいなまれ、知らず知らずに両の目からは、涙の粒がほろほろと落ちて居たので御座います。


 明日に続く

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