其ノ五 婿

「泣いたかてどうにもなりません。子供が子供を作った言うしょうもない話やけど、その娘はうちらにとっては大事な大事な跡取りや。いつか立派な婿むこさん選んで四ツ井の本家を継いでもらわな。


 そんでも労咳ろうがい言うんはほんまに恐ろしいやまいや。娘は早いとこ引き取って、うちとお父さんの手元であんじょう育てるわ。


 その……お夏さん言う女子おなごなあ。うちも良く良く考えたんやけど、女中部屋にする為に敷地の隅に一昨年おととし建てた離れがあったやろ。そこに住まわせたらええのんと違いますか。

 いくらなんでも跡継ぎを産んでくれた女子おなごを、労咳やからてそこら辺にほっぽらかしとったら、ご近所さんへの対面も悪いしなあ。


 あっこやったらうちらの住まいからも少し離れているし、うつる心配もおへん。良いもん食べさせて何不自由無い暮らしをさせとったら、じきに治るかも知れへんし。

 治ったらまた、あんさんら今度は男の子を作ったらよろし」


 家、跡継ぎ、対面……。良子よしこの頭の中に有るのはその事ばかりの様で、若い高蔭たかかげは戸惑いを隠せず、涙をそでで拭いながら、母にこう尋ねました。


「それなら……おりくは、お六はどうなるんですか?」



来週に続く

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