其ノ二十二 赤菜

「お優、ちょっと。高菜売りが来てるよ。止めて買って来て頂戴。高菜二束と、あと他の野菜も良さそうなのを適当に見繕みつくろって。なるべく安く、値切って買うんだよ。」


 女中頭じょちゅうがしらのおとみさんがこう言って、私に小銭を渡しました。私は、はい、と頷くと玄関から路地へ出て、その野菜売りの棒手振ぼてふりを止めました。


「あら、健吉さん。今日は早いのね。」


 この路地を通り掛かる野菜売りの棒手振ぼてふりは他にも何人か居りますが、今日は先生が山野村やまのむらで目をて差し上げたおばば様の孫の健吉が、天秤棒から下がった両のかごに山盛りに、生きの良い野菜を担いでこの路地にやって来ました。


「お優さん、お早う御座います。

 今日は何になさいます? 高菜も良いんですが、どうです? この赤菜あかな。根の部分の赤い艶が今日のは格別だ。糠漬けにしたら色が映えると思いますよ。」

 健吉はもう行商も慣れたもので、野菜を勧める口上も、すっかり板に着いて居りました。

「そう? では高菜を二束と、この艶々した赤菜も一束頂きましょう。」




明日に続く

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