其ノ二十三 財布

「はい、お優さん、お釣り。二文にもんになります。」


 健吉はふところから大切そうに財布を取り出し、私に釣り銭を渡しました。着物や履物が質素なのに似合わず、粋な千筋せんすじ縞模様しまもようの藍染めの財布を持って居たので、私は誉めようと思ってこう健吉に言いました。


「あら、良い財布を持っているじゃない? こんな粋な縞柄しまがらいちでもちょっと見かけないわよ。」


 私はほんの世間話のつもりで財布の話をしたつもりだったのですが、さっきまで元気に野菜売りの口上を述べて居た健吉の表情は、どう言う訳だか一転して見る見る曇り、こうべを垂れて重苦しい沈黙が流れたのでした。


 私は話題を変えなくてはと思い、

「ああ、そうそう。そろそろおばば様の目のお薬を持って行ってもらう時期でしたね。今日は先生も御在宅だから、時間がお有りなら、調合しますからみせにお上がりなさいな。」

 


明日に続く

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