其ノ二十一 棒手振り

「大平さん、天賦の絵の才などとは大袈裟な。私はね、ただ生まれ付き人よりちょっと目が良くて、細かい物をくのが苦にならないってだけなんだから。」

 大平様と春庭様、そして先生は、春庭様がおきになったこの城下町の絵地図を広げながら、三人で楽しそうに語らって居られます。


「いやしかし、私は幾つになってもこの町の鍵状の道筋には慣れんな。歌を考えながらぼおっと歩いて居ったら、すぐに道に迷って、何度どぶに嵌りそうになった事か。」

 先生は冗談混じりにも苦々にがにがしいお顔でこの様に仰ると、

「父上は歩く時、考え事をし過ぎなだけですよ。もっと御足元に集中して下さいな。」

 春庭様はこう言ってお笑いになりました。


 お三人が話に花をお咲かせになってしばらく終わりそうも無いので、私はお茶をお出ししてからお勝手に戻ると、屋敷に面して居る路地の方から、


「たかなー、あかなー、こまつなー。」


 と、棒手振ぼてふりが野菜を売る声が聞こえて参りました。



明日に続く



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