其ノ二十一 落花

桃飄火燄燄

梨堕雪漠漠

獨有病眼花

春風吹不落


 入り日がだんだん傾いて参りました。御殿ごてんの池の前にしつらえた舞台にはふえ琵琶びわ篳篥ひちりきことなどで雅楽ががくかなでる方々が居り、四ツ井よつい高蔭たかかげはその手前に立ち、白楽天はくらくてんの漢詩『落花』を、なかなかに堂々と朗詠ろうえいしました。


 高蔭の姿は濃い縹色はなだいろほうかんむり、足元には濃色こきいろ指貫さしぬきが膨らんで居り、まさに平安朝の風情を模したもので、意匠いしょうを凝らしたこの様な見事な日本庭園の、池に面した舞台に相応しいものでした。


 代々江戸に大店おおだな越前屋えちぜんやを構える、大富豪の家の嫡男ちゃくなんに生まれた高蔭は、乳母日傘おんぱひがさで何不自由無く育ち、目鼻立ちも人よりは整っており、何よりもこうした人前に出る晴れの舞台でも物慣ものなれて振る舞えるのが、見よいもので御座います。



明日に続く

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