其ノ二十 御縁

 控えの間で春庭様が、四ツ井よつい高蔭たかかげに借りた衣装に着替えていらした、ちょうどその頃の、本殿ほんでん御座ござでの事に御座います。


「おれい、本日は百万石ひゃくまんごくの大藩のお世継よつぎ、前田まえだ様がこの地を訪れて居られる。前田様はお玲の将来にとって、並々ならぬ御縁をお持ちのお方じゃ。うたげの折、くれぐれも粗相そそうの無い様にな」


 藩主様は、長らくぶりにご自身の所領しょりょうであるこの城下にお立ち寄りになり、ご家族のお顔をご覧になってほっとくつろいではいらっしゃるものの、流石は御三家ごさんけ御当主ごとうしゅ様、お姿だけではなくお声にも、大変威厳がお有りになりました。


 本日はうたげが有る為か、いつもよりも上等の、えん色留袖いろとめそでをお召しになっていらっしゃるご側室のお志麻しま方様かたさまも、ごもっともな事よと、しきりにうなずいていらっしゃいます。


「お父様、並々ならぬ御縁ごえんのお方とは、一体どう言う意味にございましょう? まさか、まさか……」


 お志麻の方様のろくきみ、先日春庭様に京扇子きょうせんすと桜のむすぶみをお贈りになった、あの有明ありあけの姫君、玲姫れいひめ様は、自らを待つ運命に暗く影を落とす父君の一言に、震える声でこうお尋ねになりました。



明日に続く



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