其ノ十九 指貫

「春庭の出番の前に、俺も一つ詩文しぶん朗詠ろうえいをさせて頂く。

 美女の御前おまえで春庭だけが良い所を見せるなんてしゃくだからね。文学館ぶんがくかんの首席の先輩に頼んで、ちょっとで、代表の座を譲って貰ったと言う訳だ」


 学業も人望も人並み外れて優れている幼馴染おさななじみの春庭様に対し、日頃から何かに付け張り合おうとする高蔭たかかげは、指を丸めてぜに仕草しぐさをして、快活に笑いました。


「お前の家は途方も無い金持ちだからな、まったく」

 と春庭様が呆れながらお笑いになると、

「まあな。ほら、お前の分の衣装も用意して置いたぞ」

 と、高蔭は畳んで置いてある衣装一通りを指差しました。


 そこには、高蔭が着ている物より淡い色味の浅葱色あさぎいろほうに、濃色こきいろ指貫さしぬきはかまかんむりくつしゃくまでもが、一揃い用意されて居たので御座います。


明日に続く



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