其ノ二十二 労咳

 お夏の診察が終わって、先生は硬い表情のまま、私お優と長吉ちょうきちと言う名の丁稚でっちの少年にだけ、寝所しんじょに居るお夏に声が届きにくい土間どまの方まで来る様に仰りました。


「大変言いにくい事なのだが……」

 先生は一度うつむいて一呼吸ひとこきゅう置いてから、ようやっと重い口を開きました。


「私の診立みたてでは、お夏さんは労咳ろうがいである可能性が高い」


 労咳……。結核けっかくとも呼ばれ、今の医学では治療法が見つかって居ない、命に関わる深刻な感染症の一つで、隔離して空気の良い所での療養も必要となるやまいだと、私も医者のはしくれとして耳にした事が有ります。


 それにしてもまさか、こんな幼い娘さんを抱えて、日陰ひかげの暮らしを強いられて居るお母御ははごのお夏が、そんな大変な病にかかってしまって居ただなんて……。



明日に続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る