其ノ二十三 感染

 先生はこうお続けになりました。


「この労咳ろうがいと言う病は、栄養をってしかるべき所で安静にして療養りょうようすれば、全癒ぜんゆする事もある……。

 が、そのかんに他の人に感染させてしまう事もまた、有り得る」


 感染かんせん、と言う言葉を聞いて、若いのにかしこ目端めはしが効き、四ツ井よつい本家からの信頼も厚い丁稚でっち長吉ちょうきちは、事の深刻さに顔を真っ青にして驚きました。


「気の毒に……。お子さんもまだあんなに頑是がんぜない年頃だ。いずれにせよ、高蔭たかかげにはなるべく早く、こちらからこの事は伝えておく」

 と先生は仰いました。


「ばあや、なげて、なげて!」


 この様な深刻な事態になって居るとも知らず、数え二つの幼いお玉は、坪庭つぼにわでばあやを相手に、無邪気むじゃき鞠投まりなげに夢中になって居たのでした。


 そのあどけない姿を見て居ると、この先このおさの運命がどうなって行くのか、医者としてこの親子に何が出来るのか、私は考えずには居られませんでした。


次章に続く

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