其ノ十七 免許皆伝

「いかにも、このお方は神陰無念流しんかげむねんりゅう及び関田流せきたりゅう柔術じゅうじゅつ 免許皆伝めんきょかいでん藤堂高虎公とうどうたかとらこう末流ばつりゅう藤堂平三郎とうどうへいざぶろう高胤たかたね殿にござる。わしを唯一負かした男ぞ」


 横から轟源之丞とどろきげんのじょうが、まるで自分の事の様に、誇らしげに口上を述べました。


「左様で御座いますか。剣だけで無く、居合いあいもお強いので御座いますね」

 春庭様が感心して藤堂平三郎とうどうへいざぶろうにこう仰いますと、


「なになに、武家たる者、これしきのことは当然に御座ります。

 ところで木居もくおり殿こそ、若干じゃっかん二十歳はたち医学師範いがくしはんとは大したものです。何でも城下の医師を集めた月例の勉強会には、傷寒論しょうかんろん温疫論おんえきろんは勿論のこと、医方大成論いほうたいせいろん等々の教科書の漢籍を、毎回一字一句たがえずにそらんじて御出席されるだけで無く、関連の書籍まで集めて来てはくまなく写し、更に分かり易い挿絵の付いた図説まで、自らお作りになられるとか。

 本当に大した頭脳です。これでは、先例の無い若年じゃくねんで医学師範になられたとて、誰にも文句は言えますまい。なあ、とどろき?」


 轟源之丞とどろきげんのじょうは、藤堂にそうたしなめられ、その様な大変な努力家の春庭様に、必要以上に絡んで喧嘩を売ってしまった事を恥じて、大きな肩をすぼめてぽりぽりと頭を掻きました。


 その時に御座います。


 正午の昼九ツひるここのつを告げる鐘楼しょうろうの鐘が、ごおんと城下に響き渡りました。




明日に続く

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