其ノ十六 剣豪

とどろき、それぐらいにしておけ。このお方は武家の出でも無いお医者様なんだから。済まなかったね。このとどろきはちょっとでも目立つ奴が出て来たら、直ぐこうやって力試しをしようとする。悪い癖だ、申し訳無い」


 とどろきよりも身のゆきたけもずっと小さく、年も若く見えるこの藤堂とうどうと言う男が、武家の者らしく剃った月代さかやきの上に滲んだ汗を拭いながら、とどろきいさめて、春庭様にこう言いました。


「いいえ。私の鍛え方が足りないだけです」


 春庭様は素直に負けを認め、土を払いながら立ち上がると、


「ところであの……不躾ぶしつけにお尋ね申し上げますが、もしかして藤堂様は、あの城下一の剣豪と名高い、藤堂平三郎とうどうへいざぶろう様でいらっしゃいますか?」


 と藤堂と言う男の方に向き直って、こうお尋ねになりました。



明日に続く

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