其ノ十八 小姓

「い、いいえ、とんでもない。この様な高価な物を、頂く訳には参りません」

 春庭様は、その扇子があまりに見事な品物で有ったので、そう仰って固く受け取りを拒みました。


「良いのです。あなたにこそ、受け取って頂きたいのです」

 有明の姫君はそう仰ると、

「さと姫、来なさい」

 と猫を春庭様の腕からご自分の腕に抱き取ると、真っ直ぐな瞳で春庭様を見つめ、春庭様のふところの中に、美しい所作でその扇子をお差し入れになりました。


 その時に御座います。


「姫様、やはりこちらにいらっしゃいましたか。探しましたぞ」

 と声がしましたので、姫君が振り返られますと、そこには大小だいしょうの刀を腰に付けた奥付おくづきの小姓こしょうが二人、姫君を探しにこの学問所の講堂に現れた所でした。



明日に続く

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