其ノ十 梁

 その猫を追って、娘らしい長い単衣ひとえそでくくらずに、息を切らして石段を駆け降りて来たのは、あの、美しい有明の姫君でした。


 三毛猫のさと姫は、槍術そうじゅつ道場の軒下のきしたから、何を思ったか、さらに火の燃え盛っている建物の内部まで入り込んで行こうとしました。有明の姫君はその猫を追って、焼け落ちて来る物や柱を縫って、槍術そうじゅつ道場に突っ込んで行きました。


「さと姫、本当に悪い子!」


 ようやっと姫が猫を捕らえたその時、運の悪い事に、姫君の単衣ひとえの長い袖が、落ちて来た何かに引っ掛かって、体の均衡が崩れました。


「あ!」


 姫君が上を見上げた時には、真っ赤に燃えた重く太いはりが、今まさに姫の頭上から落ちて来ようとして居るにもかかわらず、何かに引っ掛かったころもの袖のせいで、射すくめられた様に、その場から動く事が出来ませんでした。



 明日に続く



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