其ノ十一 背中

「姫! 危のう御座います!」


 平素から、剣の達人、藤堂平三郎とうどうへいざぶろうに鍛えられて居るせいか、咄嗟とっさの事にも頭より体がまず先に動いた春庭様は、竹刀しない鯉口こいくちを切り、一閃いっせん、頭上から振り下ろすと、天井てんじょうから今まさに落ちようとして居た燃え盛る太いはりを、真っ二つに切り裂きました。


大事だいじ有りませんか?」

 春庭様はそう姫君に尋ねつつも、手早く三毛猫のさと姫をとらえ、ご自分の羽織はおりそでに入れると、

「足に火傷やけどを負って居るでは無いですか。宜しければこちらに」

 と姫君に申し上げ、姫君の袖に引っかかった木片を手早く取り除き、御自分の背中を差し出しました。


 炎の熱さなのか何なのか、両頬を紅潮こうちょうさせた有明ありあけ姫君ひめぎみは、ただ黙って春庭様に小さくうなずき返すと、素直にその背中に身をゆだねたのでした。



明日に続く

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