其ノ十二 講堂

 姫君は春庭様の背中に揺られて居ると、胸から喉元のどもとにかけて、何かは分からない熱いかたまりが込み上げて来るのを感じました。この熱を言葉にしようとするも難しく、ただ空の方を見上げました。


 その時姫君の目に映ったのは、焼け落ちて行く道場棟どうじょうとう火炎かえんが、曇った空に飴色あめいろにじみながら立ち昇り、その更に上には、もう大分高く上って来た下弦かげんの月が、おぼろげな雲を引き連れながらぼんやりと、けれども確かに輝いて居る情景でした。


 春庭様は、姫君を背に負ぶったまま、火災などの有事の際に避難所として使う様に、平素城代じょうだいから触れの出ている、川沿いにある学問所の講堂に向かって急いで居りました。


「姫、もうしばらくのご辛抱を。幸い講堂には飛び火して居ない様です。あそこに行けば近くの溜池ためいけに水も有るし、医者なども道具を持って、救護に駆け付けて居るかも知れません」



来週火曜日に続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る