其ノ十四 囲炉裏

 正太郎が反物たんものを持って玄関を出て行きますと、おまさは私と先生の方を見て、

「あ、お客様が見えて居るのね。私はお茶だけ出したら失礼させて頂くわ。」


 おまさは健吉にそう言うと、居間の囲炉裏いろりに掛かって居る土瓶どびんを手に取り、水を足しに土間どまへ戻ると、水屋箪笥みずやだんすから柿の葉を干しただけの質素な茶葉を取り出しました。


「おまさちゃん、もっとゆっくりして行けば良いのに。」

 と名残惜しそうに健吉が言うと、

「そうね。でも、幼い妹弟きょうだいの面倒も有るから。あっそうそう、明日は鎮守様ちんじゅさまのお祭りでしょう? 渡したい物があるから、朝また来ますね。」


 おまさの方も名残惜しそうに健吉にこう言うと、囲炉裏いろりの周りに座っている私たちとおばば様に柿の葉茶を出して、丁寧にお辞儀をした後、家に帰って行きました。




明日に続く

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