其ノ十五 縞柄

はたは織れるし、気立きだても良い。あんな子が健吉の嫁に来てくれたら、わしはもう何も言う事は無いのう。」

 おばば様が健吉にそう仰ると、健吉は照れたのか、日に焼けて照りのある頬を真っ赤にして、

「そ、そんな事を今言っている場合じゃあ無いでしょう? 先生はお忙しいのにわざわざうちへ立ち寄って下すった。早く目をて貰って下され。」


 私は、先生が目を診察する時いつもそうして居る様に、け荷物に入って居る手燭てしょくを取り出し、囲炉裏いろりより火を少し分けて貰い灯芯とうしんともすと、それを先生にお渡し致しました。


 健吉の家の調度は、山村の村で良く見かける他の貧しい家のものと変わりは有りませんでしたが、村一番の織子おりこだったと先程耳にしたおばば様の着物は、かつて御自分でお織りになったのか、型は相当古びては居ても、あいで先染めした糸を、濃淡を分けて見事に織り成した粋な縞柄しまがら上物じょうもので有る事は、着物に詳しくはない私の目にも、それと分かったので御座います。

 


来週に続く

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