其ノ三 羽織

 こちらから見て正面には、白い襦袢じゅばんだけをまとい、青白い顔色をして具合が悪そうに、ようやっと布団から上半身を起こし、それでも男の来訪を心から喜んで居る表情の、あの夕顔ゆうがお女人にょにんの姿が有りました。


「おお、玉や、お玉。笑って居る。

 本当に女子おなごの子と言うものは、何と愛らしいものなのだろう」


 お玉と名付けられた小さな女子おなごの赤ん坊を、男はひざに乗せ、体を揺らしながらほほをつついてあやしたり、それはもう可愛くて堪らないと言った様子が、背中越しにも私たちに伝わって参りました。


 その男は、麻の上布じょうふ縞柄しまがらの着物の上に、薄鼠うすねず色の透ける高価なの地の長羽織ながばおりいきに着こなして居る、上商家の裕福な若旦那わかだんなと言った風情で御座いました。


 先生はその姿に何処かで見覚えが有ったのか突然、

「あ、この羽織はおりは!」

 と驚いた様な声を上げられたのでした。


明日に続く

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