其ノ七 山野村

 そんなこんなと物思いにふけりながら、一里半いちりはんほどを進め、林の中の小川沿いをひたすら歩いて参りますと、林が極まり、水源と思われる湧水の所までやって来ました。

 ここからもう一山越えるのですが、その山の入り口には小さなほら穴が有り、ほのかに光が差して居るそのほら穴が、山野村やまのむらのへの近道になって居りました。


 そのほら穴を抜けると忽然と、山桜の咲き誇る美しい集落が目に飛び込んで参りました。自然のままに生い立った、桃色にけぶる山桜の木々の合間に、田舎らしく田や野菜や綿花などの畑が小ぢんまりと整っており、そこに時折藁葺わらぶき屋根の民家が点在する、山野村やまのむらはその様な所で御座いました。


 私はその風景に心動かされ、思わず、

「ああ、桃源郷とうげんきょうの様な。」

 と、声に出して呟いてしまったので御座います。



 明日に続く



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