其ノ十一 動悸

 ちょうどその頃、町の小路こうじのあばらでは……。


 おなつは自分の布団の横に、赤い房の付いた小さな布団を敷かせて、娘のおたまと二人で寝所しんじょで眠って居た所でしたが、どうした事か、自分の胸の上に美しい女が馬乗りになり、両の腕で自分ののどを強く締め付ける様な心地がしましたので、その苦しさに思わず声を上げながら目を覚ましたのでした。


「誰? 苦しい……。離して……」


 怖くなってがばと上半身を起こしたお夏でしたが、その物音を聞いて、横に寝て居た乳飲ちのみ子のお玉が、わああと火の着いた様に泣き始めました。


「よしよし、良い子だから泣かないで」

 と、お夏は胸に強い動悸どうきと息苦しさを覚えたまま、優しく我が子を抱き上げました。


明日に続く

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