其ノ十二 片言

 生まれてからもう一年と少し経つお玉は、顔の作りが父親の高蔭たかかげに似て大変上品に整って居り、愛嬌あいきょうの有る目元や整った鼻筋など、見る者が思わず微笑み掛けたくなる様な、愛らしい少女に成長して居りました。


 この頃にはようやっと、舌足したたらずに片言かたことの単語でお喋りも少し出来る様になり、昼間には、自生した植物にほんの少し手を入れただけの簡単な坪庭つぼにわで、よちよち歩きをするようにもなって居りました。


 母のお夏はお産からこの方、一向に体調が優れず、今夜の様に悪夢にうなされて目を覚ます事もしばしば有りました。


 高蔭に手伝いの老婆を付けて貰って居るとは言え、手の掛かる数え二つのお子の面倒を見ながら、産後の肥立ひだちの良くない自らの弱った体をやしなう事は、また骨の折れる事でした。



明日に続く



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る