其ノ十一 太腿

「ええい、ものなど何するものぞ! お産はきちんと進んで居る。わしらはこの人たちを無事に、からだふたつにするまでだ」


 産婆さんばは努めて冷静にこう言うと、

「もう子宮口こつぼのくちも十分に開いて居る。先生は上から押さえて、お弟子さんはお母さんの手を、わしは下から引っ張る」

 と指示を出しました。


「ああ、あああ」

 産婦の女人は身も世もない様子で、搾り上げる様にうめき声を上げながら、両手でくだん手毬てまりを挟み込んで、強く強く握りしめました。


「良し、赤ん坊の太腿ふとももが見えて来た。幸いお尻は下がって居る様だな。あと少し、お母さん、さあいきんで!」

 と産婆は女人に言いました。



明日に続く

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