其ノ十 憎しみ

 言葉は丁寧でも、従わぬ者には一切容赦をしない強い口調で、産婦の女主人にいた何かのももが、我々にこう懇願しましたので先生は、

「お婆さん、護摩ごまくのをやめなさい」

 と女中の老婆を止めました。


 すると、その物の怪は荒々しい声でこう叫び始めました。


嗚呼ああ、あなた。私と言う者が有りながら、何故なにゆえこの様な何の取り柄も無い女と……。しかもお子までもうけようとは。憎い……、生かしては置かぬ」


「はああ、やはり物の怪じゃあ!」


 女中の老婆は叫んで戸外に飛び出し、丁稚でっちの少年はただ恐ろしくて、両の目からぽろぽろと涙を流して座り込みました。


 いにしえの物語では聞いた事が有るものの、私も先生もいまだかつて、この様な場面に出会ったことなど有りませんでしたから、ただ黙って、変わり果てた女主人が落ち着きを取り戻すのを待つしか有りませんでした。



 連休明け火曜日に続く

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