其ノ十二 生き霊

「おお、出て来た。赤子あかごが出て来たわい」

 と、一瞬満足気まんぞくげに目を輝かせた産婆さんばでございましたが、直ぐにさっと顔を曇らせ、こう言いました。


「泣かぬ……。何故泣かぬ! この子は……」


 産婆はそう言って赤ん坊の体を強く揺さぶって見たものの、くしゃくしゃの顔で青紫になって居るその赤子は、ともうんとも産声を上げません。


「あああ、これは……。やはり御本家の奥様のお恨みがりょうとなり、この方に取りいたのに違い無い。嗚呼ああ、何と恐ろしい事よ」


 いつの間にやらどこかで、追加の護摩木ごまぎを手に入れて戻って来た女中の老婆が、このように大袈裟おおげさに泣き騒ぎましたが、先生は毅然きぜんとして意に介さず、


「産婆様、赤子はわしがしっかり支えて居る。強く、強く尻を打つのだ」

 と仰いました。



明日に続く

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