其ノ六 意味深

「ほう……、これはなかなか。意味深いみしんな。」


 先生はその美しい扇子に書かれた和歌の心を汲み取ったようで、少々口元を緩ませながら、この様に仰いました。


「『照りもせず曇りもはてぬ春の夜の 朧月夜おぼろづきよにしくものぞなき』

この歌は大江千里おおえのちさとの古歌だが、この歌の下の句を、紫式部が源氏物語の登場人物で光源氏の政敵、右大臣家のろくきみに歌わせたと言う有名な場面だ。」


 先生のそのお言葉を聞き、興奮気味に被せるように、

「六の君。それはつまり、光源氏と道ならぬ恋に落ちると言う、あの有名な朧月夜おぼろづきよきみの事ですよね。よりによってその歌を、何処どこかの女人にょにんが扇子に書き付けて、春庭に贈って寄越すだなんて一体……。」

 と、普段から先生がもよおすほとんどの歌会に顔を出し、みずから寺や自分の屋敷での歌会に人を募ったりもする程、和歌に熱心な四ツ井よつい高蔭たかかげがこう言いました。



明日に続く

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