其ノ十九 ちり紙

「ご馳走様ちそうさまでした」


 高蔭たかかげと義父、義母とおりく朝餉あさげを済ませ、女中らがぜんを下げて茶をれ始めますと、高蔭はそれを一口だけ飲んでから、

「では行って参ります。今夜は遅くなるかな。お六、顔色が良く無いね。めしもほとんど減っていなかったじゃないか。奥の仕事はほどほどにして、体を大事に、ゆったりと過ごして居たら良い」

 といつもの優しい口調でお六に一言声をかけ、どこかへ出掛けて行きました。


 少しして、お六がかわやへ行って出て来たのを見計みはからったかの様に、直ぐに義母が厠に入った様子でした。


 お六は、義母が毎月このぐらいの時期になると、お六が使ったちり紙を調べる事が有るのを知って居りましたので、嫌味を言われる前に自分から義母に、


「済みません。またつきのものが来てしまいました」

 と、にがい思いで告げたのでした。



中編上に続く

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