中編上 心

其ノ一 下男

 数日後の朝のことです。


 先生と私お優は、例の逆子さかごの出産をした女人にょにんの産後の肥立ひだちをる為に、再びあの夕顔のつるが絡み付いた切懸きりかけのある、下町の小路こうじの家を訪ねようとして居た所でした。


 本日、前の時と少し様子が違って居たのは、その方の家の前に、立派な毛並みの馬に飼葉かいばを与えながら、待ちくたびれた様に欠伸あくびをして居る下男げなんが、門の脇に控えて居た事でした。


 私と先生は、そのどなたかの下男と軽く会釈えしゃくを交わすと、庭で襁褓むつきの洗濯をして居た女中の老婆に通され、家の土間どまの方に入って行きました。


 すると奥の部屋から、何やらもの柔らかい声で和歌をえいじている男の声が、私たちの耳に入って来たので御座います。

 


明日に続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る