其ノ三 煙草盆

 遣手婆やりてばばお秀は、何か品定めでもするような目付きでおまさの顔をまじまじと見てから、こう言いました。


「此処へ来て半年、朝早くから水汲みに便所掃除、下働きにもよう耐えた。そろそろ……」


 利発なおまさはこの半年、他の姐様ねえさま方の仕事の内容を、障子を隔てて薄々は感じて居りましたので、お秀の言葉をそこまで聞くと、居住いずまいを更に正して、真っ直ぐで真剣な眼差しでこう言いました。


「いいえ、私は……。私はずっとこうして下働きをして居たいのです。お姐様ねえさま方にも大変良くして頂いて居ります。どうか、どうか……」


 おまさの訴えに、お秀はくゆらせて居た煙管きせるの、鈍い光を放つ雁首がんくびをぱちんと煙草盆たばこぼんの灰落としに叩き付けると、


「馬鹿をお言いで無いよ。お前は、此処を何処だと思って居るんだい? 下働きなら男の若いもんも居る。そろそろちゃんと働いてもらわないと、おまんまの喰い上げだよ?」




明日に続く

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