其の四 振袖新造

 おまさは唇を噛み締めて俯いていると、 遣手婆やりてばばお秀は、おまさの細面ほそおもての顔に煙管きせるを持っていない方の手を掛け、その尖ったあごをクイと上げると、こう続けました。


「それにしても良い目鼻立ちをした子だねえ。これほどの娼妓こどもは、この辺には滅多にいない。これは大層化粧映えがしそうだよ。まあもう十五じゃから、禿かむろから仕込むって訳には行かないが、張見世はりみせに出していきなり客を取らせるには、実に惜しい器量だ。」


 おまさは、自分がまるで物のように品定めされていることを不快に思い、お秀をきっと睨み返しました。


「まあ、怒るでない。半年下働きさせて様子を見てきたが、お前はおつむも悪くないようだね。

 こう言う子は客を取らない振袖新造ふりそでしんぞうのうちに、良い値をつけて羽振りの良い大旦那に売りつけるのも悪くはない。まずは、染太郎姐そめたろうねえさんの所で芸事を仕込んでもらうんだな。

 それから、今日からお前のここでの呼び名はまさきちだ。

 そんなおびえたような顔をしなさんな。なあに、悪いようにはしないよ。」


明日に続く

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