其ノ五 端唄

〽︎ かずならぬ ふせやにおふる なのうさに

〽︎ あるにもあらず きゆる ははきぎ


 おまさは遣手婆やりてばばのお秀に言われた通り、夕七ゆうななツに染太郎姐そめたろうねえさんの控えの間を訪ねて見ますと、ふすまを隔ててチントンシャンという三味線しゃみせんの音色とともに、美しい声色こわいろ端唄はうたが耳に入って参りました。


 地方じかたの三味線を弾いていた年老いた仲居がばちを動かす手を止めると、

「入りな」

 とぞんざいにおまさを通し、またチントンシャンと三味線を弾き始めました。


 おまさは部屋に入り戸惑いながら辺りを見回すと、衝立ついたての隙間から、襟を肩近くまで抜いて、髪は島田髷しまだまげ灯籠鬢とうろうびんを張り出させ、肌は真っ白な白粉おしろいの地の上に、目元にはべにを引き、緞子どんすの帯を前に結んだ妖艶な女が、気持ち良さそうに端唄はうたを口ずさんで居る様子が垣間見えたのです。



明日に続く

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