其ノニ 煙管

「おかあさん、失礼致します」


 おまさは、正月にこの置屋おきやに連れて来られてから半年、下働きをしながらさんざん叩き込まれた礼儀作法で居住いずまいを正し、遣手婆やりてばばお秀の控えの間のふすまの前で、お秀に呼ばれるのを待っておりました。


「入りな」

 お秀は、祖父の代から受け継いで来たこの置屋おきやあるじで、皺だらけのまぶたの間から鋭く光る眼光が、海千山千、この世の光も闇も、全部見据えて来た事を物語って居るような、そのような老婆で御座いました。


 紫の煙管きせるの煙を、鼻からふうっと気持ち良さそうに一つくゆらせると、お秀はおまさにこう尋ねました。

「お前、幾つになった?」


 おまさは礼義正しく、よく通る声で、

「この春で、十五になりました」

 と答えました。



明日に続く

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