前編 遊里中室

其ノ一 鬼灯

 城下を南東に下り、大門おおもんをくぐればそこは異境、遊里中室いろざとなかむろ。路地の脇の鉄漿溝おはぐろどぶの縁には、元の世界に未練がましく、見返りの長いしだれ柳の枝が垂れ下がって揺れておりました。


 茶屋の並ぶ大通りを二丁ほど進んで行き止まり、右へ曲がって直ぐのところに、中堅どころの置屋おきや成香屋なりきょうやが有りました。


「ほれおまさ、早く鬼灯ほおずきを取って来るんだよ。根っこも使うから丁寧に掘って引き抜くんだ」


 遣手婆やりてばばのお秀がおまさに言うと、おまさは下働きの女中の様な質素な身なりで、成香屋なりきょうや張見世はりみせ格子こうしの脇に植わっている鬼灯ほおずきを取りに出ました。


 五、六本引き抜くと路地に打ち付けて土を払い、束にして置屋おきやに持ち帰ろうとした所、千切れた鬼灯ほおずきの根から出た汁が手に着いて、少し痒みが出たのでそこを掻きながら、おまさは遣手婆やりてばばのお秀の控えの間に、その鬼灯ほおずきの枝を持って行きました。




明日に続く


 

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