其ノ八 四方山話

 春庭様はそのまま走って帰られるのでしょう、と思いきや、雨よけに頭に行李こうりを乗せたまま、私の持つ傘に入るでも無く、付かず離れず私のそばを歩きながら、学問所のご学友の方々の普段の様子や、最近読んだ黄表紙きびょうしの事など、目にありありと思い浮かぶ様に笑顔で私にお話しされました。


 春庭様があまりに楽しそうに話されるので、私もついつられて、春庭様の食べ物の好き嫌いのお話や、先生との診察中にあった四方山話よもやまばなしなど、他愛たあいの無いお喋りをしながら歩いて居りますと、あっと言う間に魚町うおまち小路こうじの入り口の辺りまで着いてしまいました。


 その時、近所の家の植え込み根元の所から、弱々しく小さく何かが鳴く様な声が、私たちの耳に入って参りました。



明日に続く

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