其ノ五 心当たり

 私お優と先生も、おまさが心配になり、身着みきのままで、村人達と共にこの川沿いのがけに駆けつけました。


「このころもは、おまさが昨日着て居た花嫁衣装の打掛うちかけじゃ無いか。」

 村人の一人が、健吉が手にして居る生白きじろころもを見てこう言いました。


「もしかして、ここからがけに身投げしたのか? それとも誤って落ちたか。」

「いや、だとすればこんな水嵩の増した激しい急流じゃあ、助かりっこ無いだろう。」

「しかしまた何で。おまさは昨日はあんなに幸せそうに祝言しゅうげんげて居たのに、夜半に急に、雨の降る中外に出たりしたのだ?」

「誰か、何か心当たりのある者は居らぬのか?」

 とこの様に、村人達は口々に話しました。


「もしかして……。俺には一つだけ心当たりが有る。」

 口入くちい権三ごんぞうは、昨夜ゆうべ夜半に起きた出来事を、皆に話し始めました。



 明日に続く

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