其ノ四 蛻の殻

「これは……! おまさの着ていた打掛うちかけ


 木の根元に広がって居たのは、昨日の祝言しゅうげんの時におまさが着ていた、健吉のおばば様が昔、健吉の母が嫁に来る時に自ら織って仕立てた、生白きじろの木綿の打掛うちかけに間違い有りませんでした。


 当たっては行けない悪い予感が見事に的中してしまった健吉は、一刻も早くおまさ本人を探し出さなくてはならないと頭では分かって居る一方、怖くなって思う様に体が動かず、そのもぬけからの様な、土と泥水どろみずで汚れてしまった白い打掛うちかけを涙でにじむ頬に当てると、その場にただ呆然と立ち尽くしたのでした。


 その時、

「おうい、おうい! 健吉、何だ何だその白い物は」

 とすきくわを手にした村人衆むらびとしゅうが、櫛見川くしみがわ沿いに有る獣道けものみちの辺りに、一人茫然と立ち尽くす健吉の姿を見つけて、口々に声を掛けました。



 明日に続く

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